矯正治療において「ゴムかけ」という治療方法を聞いたことがありますか?
この方法は、小さい輪ゴムを矯正装置の一部にかけて治療をアシストするものです。
ブラケットワイヤー矯正ではよく用いられる方法なので、ご存知の方も多いかもしれません。
ただ「なぜ矯正装置だけでなく、ゴムまで必要なのか」という点では、その意味を知らないという方もいらっしゃると思います。
そこで今回は「ゴムかけ」について治療の意義や効果、方法などを詳しく解説します。
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■歯列矯正における「ゴムかけの効果」とは?
歯列矯正の治療方法のひとつとして「顎間ゴム」というものがあります。
矯正装置にかけておくことで、口を開いたり閉じたりする際に起こるゴムの弾性を利用して歯に力を加える方法です。
矯正治療の中では「ゴムかけ」と呼ばれることも多いです。
歯科医師が必要と判断した場合に使用方法のレクチャーがあり、患者さんに交換用のゴムをお渡し、自宅で交換していただくことになります。
⚪︎歯の細かい移動を行うことができる
主に歯を動かすのはワイヤーやマウスピースといった矯正装置ですが、それだけでは動かせない細かな微調整を顎間ゴムで補うことができます。
これにより歯並びや噛み合わせの仕上がりがさらに良くなります。
⚪︎噛み合わせを整えることに効果を発揮する
歯列の矯正治療は、単に歯を綺麗に並べるだけではありません。
歯は上下左右で噛み合うべき場所が決まっていて、正しい位置で噛み合うことでその効果を発揮します。
正しい位置で噛めていないと、綺麗に並んだ歯並びが後戻りしたり部分的にダメージを与えてしまうこともあります。
上下間にゴムかけを行うことで噛み合わせの調整も行うことができ、見た目の美しさだけでなく正しい機能を発揮できる噛み合わせへと導くための補助としてゴムを活用できるのです。
■【歯並び別】ゴムかけの種類とかけ方
ゴムかけに用いられるゴムは「顎間ゴム」や「エラスティックゴム」と呼ばれています。
また、ゴムかけの方法には歯並びによっていくつか種類があります。どのような方法で行うか、いくつかご紹介します。
⚪︎2級ゴム
2級ゴムは上顎前突(じょうがくぜんとつ)の治療に用いられます。
いわゆる「出っ歯」と言われる症状で、上顎が前方へ突き出ている症状の人や前歯が他の歯列に比べて前に出ている歯並びの人に用いられます。
ゴムは上顎の前歯に近い位置から、下顎の奥歯に近い位置へゴムをかけることで、上顎を後方へ引っ張る力が働くようにします。
・下あごを少し前にずらすように出す
・上の支点とする歯からゴムをかけて、引っ張りながら下の支点となる歯にかける
⚪︎3級ゴム
3級ゴムは反対咬合(はんたいこうごう)の治療に用いられます。
2級とは逆に「受け口」や「しゃくれ」と言われる症状で、下顎が上顎に比べて突き出ている歯並びの人に用いられます。
ゴムのかけ方も2級ゴムと逆で、下顎は前歯に近い場所にかけ、上顎は奥歯に近い場所にかけて、下顎を後方へ押し下げるような力が働くようにします。
・下あごを少し後ろにずらすように引く
・下の支点とする歯からゴムをかけて、引っ張りながら上の支点となる歯にかける
(2級ゴムと反対のかけ方)
⚪︎クロスゴム
クロスゴムは交叉咬合(こうさこうごう)の治療に用いられます。
通常上の歯が下の歯に被るように噛み合いますが、上下の噛み合わせが逆になっていることを交叉咬合といい、歯が傾いて生えてしまっていることがほとんどです。
クロスゴムは傾いて生えた歯に傾きとは逆の力を加えるために、噛み合わせる面を交叉するようにゴムをかけます。
初めは違和感を感じやすいと思いますが、次第に慣れていきます。
<かけ方のコツ>
・内側の歯から引っかけてから外側に引っかける方がかけやすい
・マウスピース矯正の場合、先にマウスピース本体にゴムを引っかけておく方法もある
⚪︎垂直ゴム
垂直ゴムは「開咬(かいこう)」や「オープンバイト」と言われる歯並びの治療に用いられます。奥歯はしっかり噛み合っているのに前歯の上下が噛み合わず開いている状態の噛み合わせの状態で、開いている歯列をしっかり閉じるために上下垂直方向に力が加わるようにゴムをかけます。
・上下のゴムかけした位置が同じ部位かどうか確認
・上の歯からゴムをかけて引っ張りながら下の歯にかける方がかけやすい
⚪︎正中ズレ改善のためのゴムかけ
矯正治療の中でよく出てくる「正中(せいちゅう)」とは、上下に噛み合わせた際に中心に来る前歯(上下中切歯)の近心側が鼻の中央と人中(じんちゅう)と一直線になることで、ピッタリ合っていると審美的に美しい歯並びの象徴としてよく用いられる用語です。
ここがズレているということは、上下の歯列が左右にズレがあるということです。
左右の噛み合わせを調整し正中を揃えるために、片方が2級ゴム、もう片方が3級ゴムという向きでゴムをかけます。
・2級ゴムは上の歯から、3級ゴムは下の歯からかける
・前歯側にある支点からかけるとかけやすい
◾️自宅で行われる「ゴムかけ」について
ゴムかけは交換をご自身によってご自宅で行うことがほとんどです。
歯科医師から、ご自身の歯並びに合わせた使い方、かけ方の指示がありますので、その指示に従って行いましょう。
以下に、一般的な使い方をご紹介しますので参考にされてください。
⚪︎かける際のポイント
歯科医師から指示された位置にゴムを装着します。
ゴムは上顎から下顎にかけられ、上下の歯と歯の間をつなぎます。かけ方については医院で指導があります。
かける場所やゴムを引っ張る強さなど指示通りに行わないと効果が発揮されない可能性もありますので注意が必要です。
また、ゴムをかける際には事前に手洗いをして清潔な手指で行いましょう。
⚪︎定期的に交換が必要
ゴムは日々使っているうちに劣化や伸びで効果が低下してしまいます。
そこで定期的に交換が必要です。
ゴムは使い捨てですので、場合によっては毎日取り替えて使用することも可能です。
毎日交換するのであれば、睡眠時に口腔内に雑菌が溜まりやすいため、就寝前に新しいゴムに取り替えるのがおすすめです。
また、当然のことながら、取り替える時は左右とも取り替えるようにしましょう。
⚪︎一時的に外すことは可能
食事がしづらい場合には、ゴムを一時的に外して食べることはできます。
また、歯磨きの際にもゴムが邪魔になるので外して磨くようにしましょう。
外した後はゴムの汚れも綺麗にして、かけ戻し忘れがないようにします。
また、もしも劣化していたらゴムを交換してください。
⚪︎装着時間は?
ゴムかけ期間中は、食事や歯磨きの時間を除いて、基本的にはずっと付けたままです。
最低でも毎日20時間以上の装着時間が必要と考えられています。
付け忘れなど装着時間が確保できない日が多いと、思ったように動かないなど治療効果に支障をきたしてしまう場合があります。
そのため治療期間が伸びることも考えられますので注意が必要です。
⚪︎出かける時は「予備のゴム」を持ち歩くのがおすすめ
あくびや笑って口を大きく開けた瞬間にゴムが切れるということもあります。
外出先で切れたら、家に帰るまでゴムなしで過ごさなくてはなりません。
予備のゴムを小さなパウチパックなどに入れて持ち回ることをおすすめします。
◾️ゴムかけによる「痛み」について
ゴムかけをすることで矯正治療の痛みを増長してしまうことはあるのでしょうか?
ゴムかけによって起こる「痛み」について詳しく解説します。
痛みの原因や痛みの程度を知っておき、いざ治療開始した際の対処法などの参考にしてください。
⚪︎痛みの原因
・歯が移動する時にかかる圧力
ゴムかけによって歯に圧力がかかります。
歯が動くことで、動いた側の歯根周辺の組織が吸収されます。その影響で、圧力がかかってすぐは一時的に痛むことがあります。
・軟組織への刺激
ゴムが軟組織に接触することもあり、口腔内の粘膜や歯肉が擦れる等の刺激から痛みや違和感を引き起こすことがあります。
⚪︎どんな痛み?
経験者の皆さんからは「歯が浮いた感じ」「歯が締め付けられるような痛み」「顎が疲れる」といったお声をよく耳にします。
これらは約数日〜1週間程度で徐々に軽減してくることがほとんどです。
⚪︎痛みが長期的な場合
もしも痛みが長引く場合には、以下の要素が考えられます。
・ゴムが正しくかけられておらず、余分な圧力がかかってしまっている可能性がある
・歯や周辺の軟組織に過度な負荷がかかってしまっている
1〜2週間経過しても痛みが軽減されなかったり、逆に酷くなったりする場合は、早めにかかりつけの矯正歯科に相談しましょう。
ゴムの状態を確認してもらい、適切な対処とフォローアップが必要です。
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◾️ゴムかけの治療期間はどれくらい?
矯正治療期間のゴムをかける期間は一過性のものよいうよりも、一定期間続けることになります。
その期間はどれくらいになるのか気になる方もいらっしゃるでしょう。
ゴムかけの一般的な期間をご紹介します。歯並びによって期間は個人差があるので、あくまでも参考としてお読みください。
⚪︎平均的な期間は?
先ほどのお話しとも重複しますが、ゴムかけの期間は個人個人の歯並びの状態や治療計画によって異なります。
一般的には動的治療が行われている期間に1年〜2年程度が多く、重度の症例の場合にはそれ以上の期間がかかることもあります。
ゴムかけの期間は、矯正歯科医師が患者それぞれの歯並びの状態と治療計画に基づいてご提案します。
治療期間の中で再度治療の進行度に応じて、装着の週数や月数を計算し直し調整することもあります。
⚪︎ゴムかけの期間が変わることはある?
ゴムかけの期間は歯科医師が計画しある程度どれくらい必要か提案があることもあると思います。
しかし、以下のような要素から、治療期間が変わってしまうこともあります。
・歯並びの状態
不正歯列の症状が軽度な方と重度な方の場合は、ゴムかけの期間も変わります。
重度な場合(凸凹が多い、骨格から変形があるなど)は、より長くゴムを使用することになることがあります。
・治療計画の変更
矯正専門の歯科医師は適切な治療計画を立てて治療を開始しますが、さまざまな要素から計画通りにいかない場合には治療計画の見直しを行います。
その際、ゴムかけの期間も当初よりも短くなるもしくは長くなるといったこともあります。
・患者の協力度
ゴムかけは定期的な交換が必要になり、自宅で自身で行うことがほとんどです。
そのため、歯科医師の指示通りに患者がゴムの交換を行っているかどうかが、治療期間に影響してくることは大いにあります。
歯科医師の提案をしっかり守って交換するようにしましょう。
◾️ゴムかけをサボるとどんなことが起こる?
ゴムかけは歯科医院での交換ではなく自己管理になるため、日々の交換に「慣れ」が生じてしまって忙しさや面倒臭さからサボりがちになってしまうケースがあります。
先述したように、ゴムかけには計画通りに治療を進めるために必要な装着時間があり、サボることでさまざまなデメリットが発生する恐れがあります。
⚪︎治療期間が長引いてしまう
ゴムかけは治療計画の中に「行うことが前提」として組み込まれていますので、サボってしまえば予定通りに歯が動かない可能性が出てきます。
その結果、治療期間そのものが長引いてしまい、治療期間が長くなってしまいます。
⚪︎費用が高くなる
治療期間が長くなってしまうと費用が追加される可能性があります。
マウスピース矯正であれば交換用マウスピースの追加、ワイヤー矯正であれば調整回数が増え、調整料が追加になりますので、おのずと費用総額が上がってしまいます。
⚪︎満足のいく仕上がりでなくなる
ゴムかけをサボったことで噛み合わせの調整が順調にいかなくなることもあります。
見た目には歯並びが良く見えても噛み合わせがずれている場合は、食事や発音がしにくくなったり、健康な歯や顎、身体にも負担がかかるなど、さまざまな悪影響を招くリスクもあります。
⚪︎後戻りしやすくなる
ゴムかけをサボったことで、これまで頑張って動かしてきた歯が元の位置に戻る力が働いて「後戻り」を起こしてしまうことがあります。
そうなれば治療の延長や計画の練り直しをしなければならない場合もあり、これまで費やした時間もお金もムダにしてしまうかもしれません。
また、噛み合わせが整わないまま治療終了した場合には、噛み合わせをずらして噛むことも後戻りしやすくなってしまいます。
後戻りについてはこちら!
◾️ゴムかけについてよくある質問
ゴムかけについて、歯科医院でよく聞かれる質問やお悩みについてまとめました。
⚪︎ゴムかけがどうしても痛む時はどうしたらいいですか?
一般的には1週間程度(長くても2週間程度)で痛みや違和感はだんだんと和らいできます。
しかし、いつまでたっても痛みが解消されない、むしろ悪化している、仕事や通学に支障をきたしているなどの場合には、無理に続けるとかえって悪化させてしまう可能性もあります。
ただし自己判断で装着を辞めてしまったり、装着時間を減らしたりはせず、必ずかかりつけの担当医にご相談ください。
⚪︎ゴムをかけるのを忘れてしまったら?
万が一、ゴムをかけることを忘れたということに気がついた場合は、できる限り早くゴムを付けてください。
かけ忘れていた時間が長くなればなるほど、計画的に歯が動かないことはもちろんですが、ゴムがうまくかからなくなったり、マウスピース矯正の場合は装置が入らなくなるなどトラブルにつながることもあります。
⚪︎片方だけゴムが切れてしまったら?
左右どちらか片方だけゴムが切れた場合は、両方新しいゴムに取り替えましょう。
と言いますのも、歯並びや噛み合わせを整えるために、左右に同じバランスで力が加わることが必要になるため、どちらか片方だけ新しいゴムだと、引っ張る力に左右差が出る可能性があるからです。
⚪︎ゴムかけ用のフックやボタンが取れてしまったら?
ゴムかけ用の矯正装置のフックや、マウスピース矯正は歯面のボタンがありますが、それらが変形したり取れたりしてゴムかけに支障をきたしている場合には、速やかにかかりつけの矯正歯科へ連絡し、どのようにすべきか指示をもらいましょう。
すぐに対処できない場合は、次回の来院日につけ直しを行うことも多いです。
先々になるからといって、別の歯科医院で応急処置を受けたくても受け入れてもらえないことがほとんどですので、必ずかかりつけの歯科医院へご連絡ください。
⚪︎ゴムかけが早く終わる方法はある?
ゴムかけの期間は歯科医師が計画してご提案していますので、基本的に期間が短くなることはありません。
ただ、少しでも延長するようなことにならないためにも、決められた時間以上は必ずゴムをかけておくこと。
また、舌先で歯を押したり、前歯の間に舌を出すといった悪習癖があると歯並び改善を遅らせる原因になりますので、心当たりのある方は、口腔周辺の悪習癖も改善できるようにしていくのも良いでしょう。
◾️まとめ
ゴムかけは自身で装着や交換を行わなければならいこともあり、面倒に感じてしまうこともあると思います。
しかし、歯を正しい位置に正確に導くためには欠かせない工程のひとつであり、なくてはならない矯正治療の補助装置です。
地道に継続していればかけ方のコツも分かって装着にも慣れますし、痛みも圧力をかけた数日から1週間程度で落ち着いてくることがほとんどですし、耐えられないようなズキズキする痛みとは違って、多くの方が乗り越えてこられています。
自身の管理が必要な治療工程ですので、頑張ればそれだけ結果に繋がりますが、サボると治療効果が半減してしまいますので、担当の歯科医師の指示をしっかり守って、美しく健康な歯並びを手にいれましょう!
歯科矯正に興味がある方は、無料で相談できるデンタルジュというサービスがあるのでぜひ利用してみてください!