小さなお子さんの子育て中のママに「お子さんの歯並びが気になりますか?」と聞くと「気になる」と回答される方が多いです。
ですが「小児矯正を知っていますか?」という問いに「はい」と答えられる方は少ない印象です。
歯並びは気になるけれど『乳歯列期からでも永久歯の歯並びを整える治療ができる』ということを具体的に知っているというわけではないのかもしれません。
お子さまの年齢やその時点での顎や顔周りの筋肉の成長などに合わせて、矯正歯科医師が時期に応じた装置をご提案します。そこで重要になってくるのが「歯科医院選び」です。
どのような装置がどのような目的で用いられているかを保護者様がご理解されておくことで、歯科医院選びがスムーズになります。
そこで今回は「小児矯正」について詳しく解説します。小児矯正とはどんな治療なのか。どんな方法があるのか。治療の流れや費用についてなど、詳しくご案内したいと思います。
お子さんの歯列矯正の時期を検討されたり、歯科医院選びの参考にもされてください。
「小児矯正」とは
小児矯正は、お子さんのお口の成長を促すお手伝い+仕上げ作業です。一般的な永久歯(大人の歯)を整える治療とは異なります。
ひと昔前まで、矯正治療を行う際には、お子さんの歯が永久歯になり、顎の成長が完了する頃まで待つことが主流でした。
しかし最近では、顎の成長期を利用した「成長を促す処置」を施すことで、できるだけ自然に歯が並ぶように手助けとなるような装置や機能訓練を行う「小児矯正」に取り組む矯正歯科医院が増えてきています。
小児矯正は「1期治療」と「2期治療」に分かれる
小児矯正は、まだ乳歯が生え揃ったばかりの3歳ごろからでも診断可能です。
顎の成長具合や形状、乳歯の歯並びなどから、「永久歯が正しく並びそうにない」と診断された場合に開始できます。
乳歯列期は歯自体は動かしません。顎の成長と以降6〜7歳ごろから始まることの多い「歯の抜けかわり」をスムーズに行うために、顎の成長を促す「小児矯正1期治療」を治療を行います。
顎の成長が順調に進めば、歯自体をを動かす必要なく自然に歯並びが整うということを期待した治療です。
1期治療を行っても永久歯の歯並びが整わなかった場合に、永久歯を動かす「2期治療」を行います。これが一般的にワイヤーやマウスピースを使って歯並びを整える「矯正治療」と言われる治療です。
小児矯正1期は「顎の成長を促す」ことが目的
乳歯期に「歯並び」が悪くても、顎の成長でスペースが順調に確保されれば自然に歯並びが整うこともあるため、歯並び自体は動かしません。
中には、顎の成長を促す装置と並行して、部分的に歯並びも整える治療を行うこともあるようですが、顎の成長が完了する12歳前後までは、永久歯の場所は顎の成長や生活習慣の影響を受けて動く可能性があります。
そのため、一旦整えた後に歯が動いてしまい、再度歯列を整える治療が必要になる可能性はあります。
また、整った歯並びと咬み合わせを作るためには、顎だけでなく周辺の筋機能の成長も必要です。そのため「口腔機能トレーニング」を併行して行うこともあります。
1期治療を受けても永久歯が並ばなかった場合に2期治療を行う
小児矯正2期治療は、顎の成長が完了した時点で「これ以上小児矯正の装置や成長力で歯を動かすことが難しいと診断された時に行われます。
治療方法は矯正装置を使って歯に力をかけ、正しい位置に歯を動かす治療です。
小児矯正1期治療で順調に顎と筋機能が成長し、歯並びや咬み合わせが整った場合には、2期治療は行いません。
行う場合は、小児矯正1期治療を受けず永久歯列になってから歯列矯正を開始するよりも、歯を動かす期間は短く済む傾向があります。
小児期から歯科矯正をするメリットは?
保護者さまの中には「小さい頃から矯正治療することに抵抗があるという方もいらっしゃると思います。
先ほど解説した中にもありましたが、小児期から歯科矯正をすることのメリットを考え、永久歯列が完成するまで待たずに治療を行う矯正歯科医師が増えてきていますので、小児矯正を行うことのメリットをぜひ知っていただきたいと思います。
永久歯になってから矯正治療を行わなくて良くなる可能性
永久歯の歯並びが悪い原因の多くが「成長期の顎やお口周辺などの筋肉の発達の弱さ」です。
成長が弱く狭い顎になったり、お口周辺(頬や舌)の筋肉の発達が弱く、口唇や舌で歯を押して自然に整える力が働かないために歯並びが悪くなってしまうのです。
12歳前後までには顎の成長が完了するため、それまでに顎の成長を促す装置で成長を補助したり、お口周辺の筋機能トレーニングを行ったりします。
そうすることで本来必要な顎のサイズ・筋力になれば、永久歯は歯列や噛み合わせを整える必要がなくなります。
奥歯の抜歯の必要がなくなる
上記したように、顎の成長を促す治療ですから、もし永久歯列の治療(小児矯正2期治療)が必要になったとしても、小児矯正1期治療をしていない症例と比べて、抜歯を行ってスペースを確保しなければならないほどの症状でないことが多いです。
歯が動きやすく痛みも少なく治療できる
成長段階の時期は顎の骨も柔らかいため、歯が動きやすい特徴があります。
顎が順調に成長し、引き締まった口元と引き上がった舌の筋力があれば、歯も正しい位置に動きやすくなります。
また、無理な力を使わないので、永久歯の歯列矯正のように、歯が動く際の痛みを感じにくいメリットがあります。
歯周病のリスクが少ない
お子さまの場合、大人の歯列矯正に比べると「歯周病」のリスクを感じることが少なく治療することができます。
反対に、大人の場合は年齢が上がるにつれて歯周病リスクが高くなる上に装置が入ることで、さらに歯周病を警戒する必要性が出てきます。
反対に小児矯正のデメリットはある?
歯並びに関してはメリットが多いと考え小児矯正治療を行うと思いますが、幼い時期に何かしらの装置を使うこともあり、デメリットがゼロということはありません。
お子さんの適応年齢や性格、ライフスタイルなど総合的に考え、治療開始をお決めいただくのが良いと思います。
お子さんから協力は得られるか
まず、一番大事になってくるのが「お子さんの協力度」です。
小児期から矯正治療を始めるのにご自身で「治療したい」と言い出したということはほとんどないと思います。
特に年齢が低ければ低いほど、お口の中に装置を入れることへの違和感や、定期的に歯科医院へ通うことへストレスを感じるお子さんもいるかもしれません。
せっかく始めた治療が中断することになっては本末転倒ですので、まずはお子さんが最適と思われる治療法を「頑張って続けることができるか」という点が重要です。
成長と共に作り替えが必要になる
顎の成長を促す拡大装置やマウスピースタイプの装置などは、その時点でのお口に合うように作ります。
ですから、顎の成長や歯の交換などに合わせて、定期的な調整や作り替えが必要になることもあります。
永久歯の調整期間は一定間隔での受診が多いですが、お子さんの場合はイレギュラーに受診することも考えておかなくてはなりません。
装置の管理に注意が必要
お子さんは大人と違って、日常生活の中で装置を意識しての行動といっても難しいでしょう。
「学校で給食の時に外して失くした」「体育でボールが顔に当たって壊れた」など、紛失や破損の機会が大人よりも多くなります。
また、取り外せる装置の場合は自分の意思で外せるため「着けたくないから」と外している時間が長いと、計画通りに歯が動かないということもあります。
開始時期が難しい
矯正治療は年単位の治療になります。開始時期には大丈夫でも、治療期間中に受験生になったり、習い事が始まるなど、矯正治療しづらい時期がかかってくる可能性もあります。
その場合開始時期を考えなくてはならず、かといって考えすぎてもいつまでも開始できない…ということもあるようです。
お子さんの最適な時期を見極める上でも、早いうちから検討できると時期にも余裕が生まれるのではないでしょうか。
永久歯も矯正治療することになる可能性もある
小児矯正は顎の成長を促す治療が多く、うまくいけば自然に永久歯は整い、永久歯の矯正治療(2期治療)はせずに済みます。
ですが、必ずしも永久歯が正しい位置に整うとは限らないので、小児矯正(1期治療)をしていても永久歯の矯正治療が必要になる可能性もあります。
小児矯正の種類
小児矯正において、一般的によく用いられている装置をご紹介します。
医院(矯正歯科医師)によって取扱いの装置が違いますので、ご希望の装置がある場合には、事前に確認してカウンセリング予約をされることをおすすめいたします。
マウスピースタイプ(インビザラインファースト、マイオブレース、プレオルソなど)
マウスピースを決まった時間装着することで、顎に力をかけて成長を促したり、お口で起こる悪習癖の改善を行うことを目的とした装置です取り外しできるので、食事などは通常通り行えますが、紛失や変形のリスクはあるので、取扱いには注意が必要です。
【こちらも参考に!】:マウスピースを使った子供の矯正って?
床矯正(可撤式)
「床」と呼ばれる上あごに固定できる素材に固定用のワイヤーが付いた装置です。
顎の骨に力をかけて成長を促します。ネジが付いていて、定期的に力を加えて装置を広げるタイプもあります。主に乳歯列〜奥歯が生え変わる前の時期によく用いられます。
ループタイプ(固定式)
クワドヘリックス、リンガルアーチなど
奥歯にバンドとワイヤーでできた装置を固定し、顎の成長のために必要な力を補助的に加える装置です。こちらは取り外しができないように奥歯に固定します。前歯が永久歯に生え変わった頃(上下8本)に始めることが多いです。
ヘッドギアなど外から行うタイプ
反対咬合など、上下逆に噛んでいるような骨格の場合に使用する装置です。外側から毎日一定の時間だけ圧力をかけて、顎全体を動かします。
MFT(口腔機能訓練)
歯並びが悪くなる原因の一つとして考えられているのが「顎の成長不全」と「お口周辺の筋機能の弱さ」です。
そこで、お口の成長を促すための口腔機能を育成するための運動を行います。
装置の治療と並行して行うことで、自然に歯並びが整うための機能を備えると同時に、矯正治療後の後戻りもしにくいお口作りにもつながると考えられています。
小児矯正の費用はどれくらい?
小児矯正は一般的に皆さんがよく目にする「歯を動かす矯正」とは費用が異なります。どれくらいの費用がかかるのか、費用感を事前に知っておくと、治療開始の参考になると思います。
小児矯正の費用相場は?
小児矯正も保険適応外の治療になります。乳幼児医療証などの自治体による医療費補助制度の対象にもなりません。
費用は医院によって違いますが20~30万円が相場です。
小児矯正の費用プラン例
・パック料金制でその中に装置代、調整料、管理料、機能訓練、ブラッシング指導など含まれている場合 |
・治療の基本料があり、調整費用は調整日に都度発生する |
・保険適応で行われる定期歯科健診のタイミングに調整やチェックを行い、保険外は装置代のみという場合 |
など、医院によってさまざまです。
2期治療でさらに費用がかかる?
多くの医院が、1期治療を受けた方がもし2期治療が必要になっても、1期治療時の費用を差し引いた費用相当になるなど、料金プランで考慮されています。
医院によって費用は異なりますので、小児矯正を始める前に事前に確認しておきましょう。
小児矯正を受ける医院はどうやって選ぶ?
「小児矯正をしたい」と思った時に迷うことのひとつが歯科医院選びではないでしょうか?
お子さんの歯並びの状態や年齢、希望する装置などにもよりますが、どんな点に気をつけて医院を決めれば良いのか、医院探しをする際にヒントになるポイントとして参考にしてみてくださいね。
お子さんの年齢を参考に選ぶ
小児矯正といっても幅広く、まだ乳歯列期の3〜5歳頃から始める医院もあれば、全体的に永久歯列になってくる小学校高学年〜中学生くらいからの受け入れという医院もあります。
医院のHPなどを参考に、どのような治療に何歳頃からのお子さん対象で取り組んでいらっしゃるか、カウンセリング予約前に確認しておくとスムーズです。
希望装置の取扱があるかどうか
小児矯正で用いられる装置では、同じ目的の装置であっても、取扱いしているかどうかは医院によって違いがあります。
例えば「顎の成長を補助する装置」にはいくつか種類があり、床タイプのもの、マウスピースタイプのもの、またどちらも取り扱っているという医院もあります。
これは、歯科医師の治療方針や得意な治療法などが異なるからです。
希望装置があれば、医院に取扱いがあるか事前にチェックしておきましょう。
通院のしやすさ
小児矯正は成長に合わせて装置の変更があったり、永久歯列になるまで長期的に通院することが多いです。
開始した時には幼い時期でも、小学生・中学生と進学や進級する中で、習い事や部活などお子さんもライフスタイルの変化が起こります。
ただ、近くに最適な医院がない場合には、少し足を延ばして医院を選んでいただくこともあるかもしれません。
治療が始まれば定期的な通院は1ヶ月〜数ヶ月に1回になるので、休日を利用して通院できる医院や、公共交通機関でお子さんが通いやすいエリアなど、将来的に通院できるかどうかも見越して医院を選ぶことをおすすめいたします。
スタッフとの相性
成長期の大切な時期に長期的に通うことになる医院選びですので、できればお子さんが楽しく通院できる医院を探したいものです。
また、治療を開始したら「思ったのと違った」と行って気軽に転院できる治療ではありません。ですから、お子さんの性格やライフスタイルに合わせて、相性が合う医院を探すのも、長く通う医院を探す際のポイントです。
いくつかカウンセリングを受けてみて、医院の雰囲気やスタッフとお子さんとの相性なども体感されてみてください。
小児矯正Q&A
小児矯正について保護者のみなさんからよく挙がる疑問についてお答えします。
何歳から治療できますか?
A:医院の治療方針や装置によって違いもありますが、早くて3歳頃から治療を行っている医院もあります。
ただしお子さんの協力状況にもよりますし、装置をすぐに入れるのではなく、お口の機能訓練から始めるという方針の医院もあります。
矯正治療は計画を立て、継続しないと思うように進みません。歯科医師と相談して最適な開始時期を決めていきましょう。
永久歯になるまで待った方がいいですか?
そもそも歯並びが悪くなる大きな原因のひとつが「顎の成長の弱さ」です。永久歯になるまで待って行う治療は歯を実際に動かして正しい位置に並べる「動的治療」です。
ですから、永久歯になるのを待っていても、顎の成長が弱ければ、顎を広げる治療をしたり、奥歯を抜歯してスペースを作ることが必要になってしまい、治療の負担は大きくなります。
小児矯正で顎の成長を促すための治療や口腔機能育成を行っていれば、少なくとも永久歯列になるのを待って治療を始めるよりも、歯はスムーズに並べやすい環境になりますので、小児矯正から取り組むことのメリットを望まれる場合は、早めに治療を開始されることをお勧めいたします。
治療する時、装置は痛くないのですか?
A:小児は、成人矯正よりも痛みは感じにくいといわれています。歯を動かす治療は「2期治療」として永久歯列になってからなので、成人矯正のような痛みを感じることなく治療を受けることができます。
顎の成長を促す装置を入れてすぐは違和感を感じることもありますが、すぐに慣れてきます。
ただ、ワイヤーなどが変形したり破損したりして粘膜を傷つけてしまうと痛むので、気づいたらすぐに歯科医院へ相談してください。
1期治療だけって受けられますか?
A:1期治療を受けて、どれだけ自然に歯が並ぶかによって、2期治療を行うかどうか歯科医師が判断します。
顎の成長を促す1期治療だけで綺麗に歯並びが整うこともありますし、1期治療を行っても正しい位置に並ばない場合もあるからです。
もちろん1期治療を受けたからといって、必ず2期治療を受けなければいけないということではありませんが、2期治療が必要と診断された場合には、医院と費用やタイミングなどあらためて相談しましょう。
引越しすることになったらどうしたらよいですか?
通える圏内であれば、できるだけ同じ歯科医師の治療を受けることをお勧めします。
矯正治療は開始から終わりを見据えて治療計画を立てているので、途中から他の医院へ転院することでのリスクを考えると、できるだけ同じ医院で治療することが望ましいからです。
ただ、どうしても通えない場所へお引越しされる場合には、お引越し先で転院を受け入れてくれる歯科医院を探します。
治療を開始した医院から紹介してもらう場合や、紹介状や資料を準備してもらい、引越し先で転院受け入れ可能な矯正歯科医院を探すという場合などがあります。
スポーツや楽器演奏などはできますか?
取り外しができる装置に関しては、試合や演奏時などに一時的に取り外すことは可能です。
ただし、それ以外では決まった時間は装着しておかないと経過通りに治療がすすまない原因になってしまいますので注意が必要になります。
まとめ
小児矯正は全般的に、永久歯の矯正治療のように「歯を並べる」というような治療とは異なります。
乳歯が混在している時期や、まだ顎が成長過程の時期に歯を動かしても、また歯並びが変わってしまうため、顎の成長が完了する頃までは歯を動かすことはあまり行いません。
ただ、永久歯が綺麗に並ぶためのお手伝いとして「顎の成長を促す」「正しい口腔機能を育てる」ということは早いうちから取り組むことができます。
お子さんのお口の機能や歯並びが気になったら、その時期に合わせて治療や相談に乗ってくれる矯正歯科を探しましょう。
矯正歯科では、すぐに治療を開始することはなく、必ず「カウンセリング」を受けることができます。まずは気になる医院のホームページをチェックしたり、電話で問い合わせをしたりするなどしてから受診予約することをお勧めします。
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