歯科矯正では、歯を移動させたい方向に動かすためにさまざまな処置を行うことがあります。その中でも今回は、「歯科矯正用アンカースクリュー」についてご紹介します。
歯科矯正用アンカースクリューとは?
歯科矯正用アンカースクリューとは、歯ぐきの骨に設置する小さなネジのことです。
設置した矯正用アンカースクリューは、そこを固定源にパワーチェーンや顎間ゴムをつけて歯を移動させていきます。奥歯を後ろの方向へ動かしたいときや、歯を歯ぐきの方向に動かしたいときに行われます。
別名で「インプラント矯正」と呼ばれていますが、歯を失ったときに入れるインプラント治療とは全くの別物です。
直径1~2mm、長さ6~10mm程度のとても小さなもので、素材はアレルギーを引き起こしにくいチタンでできています。
歯科矯正にアンカースクリューが必要な理由
なぜ歯科矯正用アンカースクリューが必要になるのでしょうか。
ワイヤー矯正やマウスピース矯正といった装置のみで歯を動かす場合、歯を固定源にするため、その歯まで動いてしまいます。
矯正治療では一部の歯だけ動かしたくないケースも多いため、動くことのない歯ぐきの骨に設置する歯科矯正用アンカースクリューが必要になるのです。
なお、従来は「ヘッドギア」と呼ばれている装置を頭からかぶる必要がありました。ヘッドギアは1日10時間以上装着しなければ効果が得られにくいため、成人矯正ではほとんど使用されません。
一方、歯科矯正用アンカースクリューは、小さな装置であることに加えて、確かな固定源になるため成人矯正治療ではよく用いられています。
歯科矯正用アンカースクリューが必要になる症例
歯科矯正用アンカースクリューが必要になる症例は以下のとおりです。
- 出っ歯の症例
- 受け口の症例
- 前歯が噛み合わない症例
- 噛み合わせが深い症例
出っ歯の症例
前歯が大きく前に突出した出っ歯は、抜歯して歯を並べるケースが多いです。
抜歯したスペースを有効に利用し前歯をしっかり下げたい場合、歯科矯正用アンカースクリューを使用することがあります。
受け口の症例
上の前歯が下の前歯で覆い被さっているような受け口は、歯科矯正用アンカースクリューを設置することで下の歯の後ろへの移動が可能になり、噛み合わせを改善します。
前歯が噛み合わない症例
奥歯で噛んだときに前歯が開いてしまう状態を改善するために、歯科矯正用アンカースクリューを設置することがあります。
奥歯を歯ぐきの方向へ押し込むことが可能になり、下の顎が咬みこみやすくなることで噛み合わせの改善が見込めます。
噛み合わせが深い症例
噛み合わせが深い場合、歯科矯正用アンカースクリューを設置して上の前歯を歯ぐきの方向に押し込むことがあります。それにより噛み合わせが深い症例でも改善が見込めます。
歯科矯正用アンカースクリューのメリット
歯科矯正用アンカースクリューのメリットは以下のようなことが挙げられます。
- 治療期間が短縮できる可能性がある
- 難しい症例に対応できる
- 抜歯せずに矯正治療を行える可能性がある
治療期間が短縮できる可能性がある
歯科矯正用アンカースクリューを使用することで、動かしたい歯だけを動かすことができるため、治療期間を短縮する場合があります。
難しい症例に対応できる
固定源を歯ぐきの骨におけるため、上下左右とさまざまな方向から矯正力をかけることができます。そのため、治療の幅が広がり、難しかった歯の動きでも対応することが可能です。
抜歯せずに矯正治療を行える可能性がある
歯を並べるスペースが足りない場合、抜歯してスペースを確保することがありますが、歯科矯正用アンカースクリューを設置すると奥歯を後ろに移動できるため、抜歯せずに矯正治療を行える可能性があります。しかし親知らずの歯がある場合は親知らずの歯の抜歯が必要になります。
歯科矯正用アンカースクリューのデメリット
歯科矯正用アンカースクリューのデメリットには以下のようなことが挙げられます。
- 設置するためには簡単な手術が必要
- 脱落する可能性がある
- 費用は別途でかかることがある
設置するためには簡単な手術が必要
歯科矯正用アンカースクリューを設置するためには、簡単な手術が必要になります。
そのため、麻酔が切れたあとは痛みや違和感を感じることがあります。ただし、強い痛みが出た場合は痛み止めを飲んだうえで、担当の歯科医師に連絡しましょう。
脱落する可能性がある
歯ぐきの骨の状態によって、歯科矯正用アンカースクリューが脱落する可能性があります。その場合、再度設置する必要があります。
費用は別途でかかることがある
歯科医院によって異なりますが、歯科矯正用アンカースクリューは別途で費用がかかることがあります。
歯科矯正用アンカースクリューの注意点
歯科矯正用アンカースクリューを設置したあとは、清潔に保つことが大切です。
周囲に汚れがたまってしまうと、歯ぐきの腫れや感染を起こし、脱落の原因となります。なおお手入れの方法は、やわらかい歯ブラシやタフトブラシを使って、歯磨き粉をつけずに付着した汚れを優しく磨きます。
歯科矯正用アンカースクリューの処置の流れ
歯科矯正用アンカースクリューの処置は以下のような流れで行われるのが一般的です。
- レントゲン・CT撮影
- 局所麻酔
- 歯科矯正用アンカースクリューの設置
- 歯の移動の開始
- 歯科矯正用アンカースクリューの撤去
まずはレントゲンやCT撮影を行なって設置する位置を確認します。次に局所麻酔をしてから設置する手術を行います。
所要時間は手術で15分程度、レントゲン撮影など含めると1時間程度になることが多いです。
手術後は、すぐに力をかける場合と歯ぐきが安定するまで約1~2週間は様子をみることもあります。固定されているのを確認してから、ゴムかけやコイルスプリングなど使用して歯を動かしていきます。
矯正治療で必要がなくなったら外す処置を行いますが、そこまでの痛みではないため麻酔なしでも外すことは可能です。心配な場合は設置するとき同様に麻酔をしてから外すかは担当の先生と相談してみることをおすすめします。外したあとは歯ぐきに穴が開いた状態になりますが、1週間程度で元の状態に戻ります。
まとめ
歯科矯正用アンカースクリューは歯ぐきの骨にネジを設置するため不安になる人もいますが、治療の幅を広げるためのものであって、決して危険なものではありません。
ただし、治療に不安を抱くようであれば、歯科医師とよく相談して、納得したうえでアンカースクリューを使用するのか選択することが大切です。